塚本邦雄と寺山修司
この二人を、「と」という助詞でつなぐくとの危うさを、私とても知らぬ訳ではない。「と」・・・それは同質をつなぐほどには、対極をもつなぐ。おそれずいえば、この二つの星は、対極であるとともにそれゆえに同質である。つまりは同質であるとともにそいゆえに対極である。この可逆の構図は、極めて簡明にして極めて微妙、右は天上を志し、左は墜地獄に燃える双頭の鷲の、生としての痛みと死として歓びの同時体感をよみとることができるだろう。
(中略)
寺山のメインテーマが、戸籍喪失、戸籍探しであることはかつて述べたが、すべてを己れを求める寺山とは対比する時、その意味はより明確化するだろう。比喩として言えば、塚本は子宮を裡に持ち(あるいはすなわち子宮であり)、寺山は子宮への遡行(欠落感、飢餓感)を全行動の原理とする。国文学(学燈社)昭和51年1月号・特集より抜粋
新いろは加留多
- い
いろは親仁とアイウエ息子 塚本
言わぬが鼻 寺山 - ろ
ロンドン土産に赤毛布(あかげつと) 塚本
論より勝負 寺山 - は
歯医者の外車 塚本
針の穴に親指 寺山 - に
二枚目の女旱(をんなひでり) 塚本
似てい妬いても食えぬ 寺山 - ほ
ホックはづしてファック 塚本
ほら吹いて花散らす 寺山 - へ
変人変心せず 塚本
へそまがりの字まっすぐ 寺山 - と
蜻蛉蝶々(とんぼてふてふ)もパリ帰り 塚本
遠くの火事近くの情事 寺山 - ち
近すぎて背中合わせ 塚本
蝶にもなれず昼寝ばかり 寺山 - り
悋気って病気? 塚本
律儀者の子無し 寺山 - ぬ
塗り上げて他人の顔 塚本
縫い針にはれ瞼 寺山 - る
ルーペで象見物 塚本
留守にでは虹 寺山 - を
女形(をやま)の子沢山 塚本
女形(をやま)火を吐く子役が血吐く 寺山 - わ
近若様店曝し(たなざらし) 塚本
わら人形にわが顔 寺山 - か
閣下殿下定価以下 塚本
鍵穴からうなぎ 寺山 - よ
塗よんどころなく父名告(ちちなのり) 塚本
嫁入りの蛇かくし 寺山 - た
タブーの豚 塚本
便りがないのは死便り 寺山 - れ
冷蔵庫に恋文隠す 塚本
霊界から電報 寺山 - そ
そばかすで獅子飼う 塚本
葬儀屋に産衣 寺山 - つ
土捏ねて人間国宝 塚本
月に梯子 寺山 - ね
寝てから起きるものなあに 塚本
猫踏んで里帰り 寺山 - な
海鼠(なまこ)の用心棒 塚本
流されてから棹さがし 寺山 - ら
ラムネも天然記念物 塚本
欄干から赤紐 寺山 - む
息子恋敵 塚本
麦藁蛇が枕の下 寺山 - う
盂蘭盆(うらぼん)にロカビリアン 塚本
うなぎの歯ぎしり 寺山 - ゐ
猪首鳩胸千鳥足 塚本
(いくびはとむねちどりあし)
井戸から手踊り 寺山 - の
暢気(のんき)は損気 塚本
のぞかれてからみだれ髪 寺山 - お
鬼も妹閻魔の姉 塚本
押し絵の七ほくろ 寺山 - く
車は急に動けない 塚本
靴屋のねこばば 寺山 - や
養老院から孫の葬式 塚本
焼け狐に棍棒 寺山 - ま
松虫露虫一匹千圓 塚本
幕下りれば赤の他人 寺山 - け
今日は明日のぬけ殻 塚本
毛深くて尼となり 寺山 - ふ
ふたなりひらのドロンドロン 塚本
福は内 鬼も内 寺山 - こ
白痴(こけ)の知恵隠し 塚本
米櫃のこびと百人 寺山 - え
栄耀(えいよう)に麦飯 塚本
煙突に蝶ネクタイ 寺山 - て
天災地下より 塚本
手で書いた足 寺山 - あ
あさってもすぐにおととい 塚本
あんまの地図好き 寺山 - さ
鞘も身のうち 塚本
三度目の大嘘 寺山 - き
麒麟の日照権 塚本
気違いも髪型 寺山 - ゆ
雪降って家崩れる 塚本
湯上がりののみとり粉 寺山 - め
めかけもさんゐん 塚本
迷路でじゃんけん 寺山 - み
三日麻疹(はしか)に九日コレラ 塚本
見せるだけの毒薬 寺山 - し
支那のジャパン知らず 塚本
死人のおしゃべり 寺山 - ゑ
絵葉書好きの旅嫌い 塚本
絵馬のかげの産婆 寺山 - ひ
冷え性で高利貸食ひ 塚本
ひらがなで女を捨て 寺山 - も
桃より腿(もも) 塚本
持たぬ棒でぶたれる 寺山 - せ
せがまれてつけ胸毛 塚本
千里の野に蚤一匹 寺山 - す
鮨食ってオマージュ 塚本
酢が過ぎてまだ童貞 寺山 - 京
京育ちの祇園知らず 塚本
東人形は顔ばかり 寺山