「野脇中学校新聞」昭和25年1月1日

中学2年生の時の作品です。

童話 大空の彼方

昔々、支那のお話です。
地図をごらんなさい。河南の少し下に伏牛山という字が書いてあるでしょう。伏牛山はそれはそれは大きな山でした。山の麓にたった三軒だけお百姓さんがいました。中で大仁さんというお百姓さんの家には黎明という子供があります。黎明は今年十才になる賢い子でした。今日も伏牛山のふもとに寝ころんで空を眺めていると色々の考えが浮かびました。
「大空には何があるんだろう。それに空って一体どんなものだろう? きっとあの高い伏牛山に続いているんだナー、昇ってみたいなァー」
こんあ事を考えている内に黎明は眠くなりました。おやおやもう寝てしまいました。
ふと気がついてみると、黎明は伏牛山をどんどん昇っていました。何故昇っているの? 黎明は自分ながらも不思議でたまりません。けれども足はそんな事は一向にかまわず、どんどんどんどん昇って行くのです。全くの自覚が失われています。空へ行くんだ! 心がこうつぶやいている様です。
「ソラーツ」と叫ぶと花がいっぱい入った香水のような水があたりにまきちらし、早くおいでおいでと天国からのような優しい声がむかえます。もううれしくてたまりません。夢中で昇りました。とうとう頂につきました。けれども空はやはりずっとずっと上でした。黎明は悲しくなりました。やがて空は黄昏のなくを下し見るまに暗くなってしまします。ほうほうとふくろうがさびしく鳴いています・夜風の中にすすきがさみしくおいでおいでをしています。突然! ゴァーツと雷でも落ちたかと思われる顔のすごいお化が現れました。
真っ赤な血が顔について口は耳までさけ虫歯が七本ばかりつき出ています。
アッ、黎明はびっくり仰天! 逃げたくても逃げられません。可哀そうに黎明は腰を抜かしました。「俺は空だ」男はどなりました。手の刀がギラギラと光っています。俺は空だッ、用がなかったら帰れッ・口から火がメラメラと出ています。
「か、か、帰ります」と逃げようとしますが立てる訳がありません。殺すぞッ、ピカッ、稲光りがして刀から水が飛び顔にかかります。キャーッ、た、たすけて—助けて—と叫んだ時、水が首すじにサーツとかけられた様な寒さを感じコロリと意しきが不明になりました。
ボンヤリ何か見えます。—足です—誰かの? 「風を引くぞ」と突然父さんの優しい声が耳元に響きました。気がつくと黎明は伏牛山のふもとに寝ころんでいたのです。では—
夢・・・夢だったのです。黎明は再び空を見上げました。
「空って、あんなにこわいものかなァ」
(空なんて天国のような気がするけどなァ)
黎明はこうつぶやきました。
夜風がサーツと流れて、ほほに当たります。黎明はこ黎明は立ち上がって帰りました。星がにこにことそれを見送っていました。

(完)

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